鹿狼山から  
9 鹿狼山のヤマユリ      小幡 仁子

 7月末になると鹿狼山の登山道のあちこちにヤマユリの花が咲く。この花は、本当に自生種とは思えないくらい豪華で華麗で美しい。この花を、香りがキツクて・・・と敬遠する向きもあるが、鹿狼山に通う者としては自慢にしたい花の一つである。いつか何かの本でヨーロッパアルプスの広大な花畑は美しいが、「日本のヤマユリのように大きくて華麗な花はない」と書いてあるのを読んだことがある。そういえば以前、ヨーロッパアルプスをハイキングしたときもユリ科と思われるような大きい花はなかった。もっともヤマユリは鹿狼山のような標高の低い里山に、半日陰のような所を好んで咲くのだから、アルプスのように標高の高い所にないのは当然のことだろう。 さて、今日はヤマユリのつぼみがどのくらい大きくなったかを確かめに行くことにした。というよりも、最近ヤマユリの花が少なくなったような気がして、特に、頂上の杉木立にあるヤマユリは、花が6個付いていて見事であったから、あの株は残っているだろうかと気になったのである。あれは3年前の霧の日だったが、いつものように鹿狼山に登っていてこの大輪のヤマユリに出会った。霧の中で佇む風情が花の精のようで、ぞくっとする程美しかった。それ以来ヤマユリといえば、この日の霧の中のヤマユリを想うのである。
 この株はどれであったかと写真を元に探してみた。それらしい株はあるにはあったが、つぼみが5個しか付いていない。ふ〜む、別物か、やっぱり。ユリは年数がたつにつれて、花数は多くなるはずである。あんなに立派に咲いていたから、また持って行かれてしまったのかな?葉っぱだってもっと沢山あったしなあ。もう霧の中であの風情のある姿を見ることはできないのか!そう思うと寂しいような腹立たしいような、何ともやるせない気持ちになった。山にある物はそのまま山においてほしいものである。

霧の中のヤマユリは一期一会