鹿狼山から  
8 鹿狼山の小鳥たち      小幡 仁子

冬の阿武隈は小鳥たちの天国である。鹿狼山にもたくさんの小鳥たちがやってきて、葉をすっかり落としたコナラやイヌブナの枝に止まるので姿が確認できるようになる。いつの観察会であったか、会代表の高橋さんが、「今日は○種類の鳥がいましたね。○○と××と・・・」というのを聞いて驚いた覚えがある。自分には小鳥の姿は見えなかったし、鳴声を聞いてもさっぱり分からなかったからだ。町の図書館に小鳥の本があって、CDが付いていたので毎晩寝る前に聞いてみたが、小鳥の囀りはあまりにも心地良く、すぐに眠ってしまい、この方法で覚えるのは無理と諦めた。それでも、鹿狼山に通ううちに、少しずつは分かるようになっていった。シジュウカラは最初に覚えた。ほっぺが白いから遠くからでも見分けが付いた。それから、ある日曜日の朝に、「トトトト・・・」と音がして、ドラミングの音だと気が付いて庭を見たら、桜の木にコゲラ君がいた。ちょうど次男が起きてきたので、双眼鏡を渡すと「ほう〜、コゲラっていうのかあ、鹿狼山からきたのかなあ」と言っていた。「ギーッ」と鳴いて行ってしまったが、木に垂直に止まるし、腹に斑点があり、鳴声も分かりやすい小鳥である。小鳥たちは忙しく首を動かしながら、一生懸命何か啄ばんだり、「チッチッチッ」と鳴いたりして愛くるしい生き物であり、鹿狼山に登るときの楽しみの一つになった。

 先日、午後から一人で鹿狼山に登った。午前中は人が多いので、警戒心の強い小鳥たちは余り姿を見せない。静かに一人で登っていると結構向こうからやってきてくれるのである。そしたらのっけから桜の木に止まっている大きな鳥に出会った。「うわあ〜何だ、この偉そうな鳥は!」とカメラを向けたが、逃げる気配もない。飛んでいかないうちにとシャッターを何回もきった。クチバシがかぎ状になっていたから、猛禽類の仲間とは思ったが、私の頭の引き出しの中からは名前が出てこなかった。それにしても堂々としたものである。そのうちに大量な糞をして飛び去ってしまった。身体を軽くするために長く木に止まっていたものか。飛び去る姿は颯爽としていた。この後、少し歩いたところで、エナガの群れがやってきた。10羽以上はいた。小さな体に長い尾が付いているので、これも良く分かる。さかさまに小枝にぶら下がったり、枯れたアジサイの花を啄ばんでいるのは、種でも入っているのだろうか。中にヤマガラが2羽ほど混じっていた。胸のオレンジ色が美しかった。動かないでじーっとしていると、かなり近くで見ることができた。「チリリチリリ」とよく鳴き、よく動くし、写真に撮るは難しかった。

しばらく眺めていたら、Y君のことが思い出された。Y君は38歳の若さで癌に倒れ、逝ってしまった山の友達である。レスキュー隊員で、頼りがいがあって、いつも穏やかな笑顔だった。20年以上も前のこと、あの時は北海道をモトクロスバイクで走り、大雪山を登ってきたという彼を、みんなで囲んで土産話を聞いていた。「ナキウサギがいたんですよ」と言っていた。「へえーどんな風に鳴くの」という質問に、彼はえーと、と言いながら「チッチッ、チッチッ」と真顔で鳴声をまねしてくれた。北海道・大雪山で聞いてきたそのままを何とか伝えようとしていたと思う。みんなで笑ったものだ。彼を思い出したのはナキウサギと小鳥の声が重なったものか。こうして独りで鹿狼山を歩いていると、様々なことが頭をよぎる。子供二人と奥さんを残して逝ってしまったけど、彼は家族や山の仲間の思い出の中で生きているのだ。                

 3月末になれば、スミレやカタクリ、キクザキイチゲと次々に花が咲く。コナラやシデ類の新緑はことの他美しい。そして、緑が濃くなり葉が繁れば小鳥たちの姿を見つけるのは難しくなる。期間限定のお楽しみである。

「サシバ」のようです

冬の鹿狼山は明るい