鹿狼山から  
30 〜ヤマユリの戦略    小幡 仁子

9月になって、鹿狼山も秋の気配がしてきた。タマアジサイが終わって、紫色のコバギボウシが登山道沿いに点々と並ぶと、今年も秋がやってきたと思う。そのコバギボウシも盛りは過ぎていた。センニンソウもいつものようにアセビの上に白いベールを広げていて、赤いミズヒキや黄色のキンミズキヒキがあちこちに咲いていた。キツリフネもあったし、シロヤマギクやオトコエシ、ヤマジノホトトギスも白く存在感を出していた。うれしいことに、クサボタンが花びらをくるんとさせて、かわいい薄紫色の花を咲かせていた。鹿狼山は色とりどりでなかなかの賑わいであった。

 

樹木の方はどうなったかと見上げると、オトコヨウゾメにはオレンジ色の実がついていた。もう少しすると赤い実に変わることだろう。今年は山頂直下のヤマボウシの実が豊作で、日当たりが良いせいかずいぶん濃いピンク色に熟していた。一緒にいた姉が、あれは何の実かと聞くので、あれはヤマボウシの実だよ。お猿の大好物というから食べてみたことがあるけれど、ちょっと甘くてぬるぬるしていて、そう美味しくはないけれど、お猿が山で食べるものとしてはご馳走だと思うよと答えた。私たちが幼い頃は近くにヤマボウシの木はなかったので、姉はヤマボウシの実を見たことがなかったのである。そしたら姉は「私も食してみたい」と言うのだった。山頂直下のヤマボウシには近づき難いので、登山道沿いにあるヤマボウシの所に行った。たった一つだけ実がついていたので、二人でよいしょとストックを伸ばして取ってみた。本当に食べるのかと思ったら、ちょっとかじって「なるほど甘いわね」と言って、後はぷっと吐きだし、残りをポイッと放り投げてしまった。あまり美味しくはなかったのだろう。放射能値が高いかもしれないし・・・。

 

私たちが小さい頃は、たとえばサガリコと言っていたウグイスカグラの実は、甘酸っぱい味がして、秋のお楽しみだった。その他、スグリコやキイチゴやイチジク、ヨツズミと言っていたのはガマズミの実だ。みんな子供のちょっとしたおやつだった。虫が入っていたり熟していないものもあって、苦かったり、渋かったりするものだから、投げたり吐きだしたりしたものも多かった。それでも、外遊びばかりしていた私たちの世代は、野にある草木の実を口に入れるのにそう抵抗はなかった。

 

考えてみると、猿やイノシシ、鳥などの動物は果実が美味しければ喜んで食べ、その種を遠くまで運ぶわけだから、植物は種の繁栄をかけて美味しい実を育て、食べてもらうのを待っているに相違ないと思う。人間の子供だって昔はそういう運び屋動物の一部だったということだ。

 

さて、鹿狼山にイノシシが増え、ヤマユリの大株がなくなったことを、私はIさんに話した。Iさんは植物に大変詳しく、色々なことを教えてくださる方だ。Iさんは事も無げにこう言った。「あのね、イノシシがヤマユリの球根を食べるのは、ヤマユリの戦略ってことよ。というのは、イノシシの食べ方は本当に雑で、食い散らかすから、球根が飛び散って、そこから新しい芽が出てくるらしいの」ということだった。そうだったのか!と私は目から鱗が落ちた気分だった。ヤマユリはイノシシに食べてもらうのを待っていたのか!だったら、鹿狼山にヤマユリの花が少なくなったとしても、そうがっかりすることはなかったのだ。ヤマユリの球根も他の果実と同じように、種をいかに繁栄させるかの戦略を持っていたのである。

 

ただ、この度の原発による放射能汚染が原因でイノシシは増えているわけだから、自然界のバランスは崩れているかもしれない。イノシシがあまりにも増え、ヤマユリの球根を食べ尽くしてしまえば、消えてなくなるかもしれないと思ったりもする。それに飛び散った球根から芽が出て花開くまで何年かかるだろうか。飛び散ったまま消えてなくなる方が多いだろう。そんなことを思うと、登山道沿いのちっぽけなヤマユリまでがやけに目につくようになった。これは種子から発芽したものなのか、それともイノシシが食い散らかした球根から出てきたものなのか、どっちなのだろうか。そして、何年後に花咲くのだろうか。

 

ヤマユリにしても、他の植物にしても、種を残し次の世代に繋いでいくために様々な戦略を持っていることは確かである。生き物の世界は本当に奥が深い。季節折々に色々なことを教えてくれる鹿狼山である2014/09/17記)

コバギボウシ

シロヤマギク

キンミズヒキ

オトコヨウゾメの実

このヤマユリは花開くのか?