鹿狼山から  
10 鹿狼山の実     小幡 仁子

 

台風18号が去って、今日は秋晴れの気持ちの良い休日である。朝から頑張って洗濯を3回し、掃除機をかけ、パンジーの苗を庭に植えた。全く主婦は忙しい。あれこれしていたら、お昼になってしまった。鹿狼山に行くのをどうしようかなあ、と思いながらも、山頂のマユミやアオハダの赤い実がきっと良いだろうと思い、出かけることにする。鹿狼山までは車で5分。持って行くのはカメラだけだからお手軽なものである。

さて、駐車場に着いたら、何やらゴロゴロと雷の音がする。あれあれ今日は雷の予報が出ていたっけ?と思っけど、駐車場には10台近くの車があり、間もなく登るらしい母娘連れもいる。私も、ぐるっと回っても1時間超、何とかなるさと行くことに決める。

秋も深まり、山も実りの秋を迎えている。登山道は台風が落としていった枯れ葉や小枝が敷き詰められている。コナラやクヌギのドングリも沢山落ちている。でも、こんな落ちたドングリでは、リス君のエサにはならないだろうけど。いつものところでキブシの木を観察する。今年も実は付けていない。冬芽は大部伸びてきている。この木は雌雄異株で、花の軸が短い方が雌株らしいが、花は満開に咲くけれども、実を付けているのを見たことがない。雄株なのか、日当たりがあまり良くないからか。春4月、カタクリの花が終わる頃に、このキブシは見頃となる。黄色の花穂が垂れ下がり、簪のようで可愛い花である。この実で昔は、黒色を染めたらしい。(江戸時代にお歯黒に使われていた)私は、このキブシの実が沢山なったら、少し頂戴して糸を染めてみたいと思っている。でも、これではそんな機会は巡って来ないかもしれない。

登山道沿いの斜面にマムシグサの赤い実を見つける。いつだっけか、鹿狼山を登る子供が「うわー、赤トウモロコシ!」と言っていた。子供はうまいことを言うものである。まさに赤トウモロコシだ。あの姿からこの実がなるのは不思議なので、春にマムシグサの中をルーペで観察し、雄しべや雌しべがどのようになっているのか確認しようと思っているのだが、まだ果たしていない。蛇は苦手である。マムシグサはあまり好きになれない植物である。できれば、「蛇はパス!マムシはもっとパス!」だ。そして、トウモロコシと言えどマムシグサである。ちょっと味見をする気にもなれないなあ。

さて、頂上直下にマユミの大木があって、予想通り、今年は沢山の実がなっていて見事である。頂上にもマユミの木があり、それほど大きくはないが、これも沢山の実を付けている。父の話では、昔は鹿狼山には大きなマユミやツリバナの木が沢山あって、庭木として重宝がられた時期に、大部掘られてしまったということであった。これらはその難を逃れたものかもしれない。

ところで、頂上に着くとに、「ゴロゴロ」が待っていたとばかりに音高くなった。頂上には赤ん坊連れの若夫婦がいて、背負子に赤ん坊を入れて、荷物をかたづけているところだった。秋の鹿狼山を赤ん坊と共に楽しむつもりで来ていたに違いない。それから、登山口から一緒の母娘の2人組もいる。再び「ゴロゴロ」みんなで顔を見合わせる。「これはいけない。早く降りましょう」と声をかけたけど、誰もそんなに早く雨が降るとは思っていない。東の空はまだ明るく、青空が見える。「まだ大丈夫でしょう」と言っている内にパラパラッと降り出してきた。列の一番後ろに赤ん坊がいる。「赤ちゃんに被せるものはある?」と聞くと「あります」との返事。

アオハダの大木まできて、見上げるとやはり夜空の星のように空を覆っていっぱいに赤い実を付けている。でも、先日よりは少なくなった感じがする。今日はこれをじっくり見るつもりだったけど、それどころじゃない。ザーッと雨足が激しくなってくる。自分は濡れてもいいが、カメラは濡らさないように帽子を被せる。細かな雹まじりだ。ずぶ濡れになって中腹の東屋までたどり着く。先に雨宿りしていた4、5人に、大変でしたねえ、と声をかけられる。10分位の差で濡れ方が全然違っている。赤ん坊はどうなったかと思ったら、カッパを頭から被せられて、「エーン」と泣きながら入ってきた。お母さんが「ごめんごめん」と言いながら濡れた頭を拭いている。さぞかし驚いたことだろう。東屋で一緒にいたおじさんが「おーよしよし」と小さな足を撫でた。赤ん坊は、みんなに見つめられているのを感じたのか、直に泣きやんだ

  ゲリラ雨はすぐにおさまり、日が差してきた。山は何事もなかったようにいつもの静けさを取り戻した。私も、濡れた衣服の冷たさが身にしみてきたので、早く降りることにする。家に着いたのが3時過ぎ。丁度1時間半の山歩きである。もちろん、洗濯物はびっしょり濡れていて、午前中の仕事は水の泡となった。(2009/10/10

キブシの冬芽

赤トウモロコシのようなマムシグサ

たくさんの実をつけたマユミ